芦屋みっけ 読み物No.06

06

MOUNTAIN, RIVER, SEA

山も、川も、海も

駅から二十五分歩けば滝に着きます。逆に南へ下れば砂浜です。芦屋は端から端まで数キロしかないのに、その中に山と川と海が全部あります。

PHOTO — 高座の滝へ向かう道(写真差し替え)

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01

二十五分で、山になります

阪急芦屋川駅の改札を出て、川に沿って北へ歩きます。住宅地です。石垣があって、生垣があって、車が停まっている。二十分ほど歩いても、まだ住宅地です。それがある地点で、ふっと終わります。家が途切れて、道が細くなり、足の下が土になる。

さらに進むと高座の滝です。落差はおよそ十メートル。雄滝と雌滝の二本からなり、かつては修験者が滝に打たれた場所でした。

二十五分歩けば、
道が岩になります。

滝の左手の岩壁に、藤木九三という人のレリーフが埋め込まれています。藤木は一九二四年、岩登りを目的とした山岳会を仲間と作り、家から近かったこの一帯の岩場を練習場に選びました。ロックガーデンという呼び名は、そのときに彼がつけたものです。日本のロッククライミング発祥の地と呼ばれるのは、そういう経緯からです。

ここから先は、標高四百四十七メートルの風吹岩を経て六甲の山頂へ続いています。休日の朝、阪急芦屋川駅の改札から登山の格好をした人が出てくるのは、そのためです。

電車を降りてから二十五分。この距離感が、芦屋のすべてを説明していると思います。

FIG.1高座の滝。落差はおよそ10メートル(写真差し替え)

02

石と、水だけ

山を下りて、川に戻ります。

芦屋川には、堤防から河原に降りられる区間があります。舗装はされていません。大きさのそろわない石が転がっているだけです。

そこで子どもが何をしているかというと、石を飛び越えています。あるいは葉を流して、どこまで行くか見ている。水に手を入れて、また上がってくる。誰かが用意した遊びではありません。

よく遊ばれている場所に、
設備はありません。

ただし、この川はいつも同じ顔をしているわけではありません。芦屋川は天井川で、上流から運ばれた土砂が積もって川底が高くなっています。夏の渇水期には水がほとんどなくなり、乾いた石だけが残る区間があります。大雨のあとは逆に増えます。

行ってみるまで、どちらか分からない。滑り台はいつ行っても滑り台ですが、川はそうではありません。

FIG.2河原に降りられる区間。石だけが転がっています(写真差し替え)

03

松の下は、やわらかい

川をさらに下ると、松林に入ります。国道43号から河口までのあいだ、川に沿って細長く続く芦屋公園です。

足を踏み入れると、まず土がやわらかい。何十年ぶんの松葉が積もっていて、靴が少し沈みます。舗装された道を歩いてきた足には、その差がはっきり分かります。

クロマツが四百本以上あって、古いものは樹齢が百五十年を超えます。クロマツは芦屋市の木でもあります。芦屋川の並木は国道2号を境に北が桜、南が松に切り替わり、その松の部分がこの公園にあたります。桜の季節に人が集まるのは北側で、この松林は一年を通してあまり混みません。

秋になると松ぼっくりが落ちます。拾って、集めて、並べる。それだけで時間が過ぎます。

COLUMN

怪物が流れ着いた場所

松林の一角に、鵺塚という塚があります。鵺は、頭が猿、体が狸、尾が蛇という姿で語られてきた怪物です。平安の宮中に現れて退治され、死骸を舟で流したところ、芦屋の浜に流れ着いた。それを葬ったのがこの塚だと伝えられています。

河口近くには鵺塚橋という橋もあります。名前を意識せずに渡ってしまう、ふつうの橋です。松ぼっくりを拾っている足元に、そういう話が埋まっています。

PHOTO — 芦屋公園の松林(写真差し替え)

04

全部そろっている場所もあります

ここまで、設備のない場所ばかり書いてきました。けれど芦屋には、逆の場所もあります。

市の南端、南芦屋浜にある芦屋市総合公園です。いまはネーミングライツでミラタップパーク芦屋と呼ばれています。面積はおよそ十万平方メートル。松林の三倍以上あって、市内で最大です。

ここには何でもあります。陸上競技のトラック、サッカーやラグビーのできるフィールド、フットサルコート、3on3のコート。子ども向けには大きな複合遊具の広場があり、ビオトープ池ではメダカやトンボを探せます。バーベキューもできる。駐車場は三百台以上あって、車で行けます。

管理事務所には赤ちゃんの駅があり、おむつ替えやミルクにも対応しています。雨のあとにぬかるまない広場も、走り回れるトラックも、小さい子を連れて行ける設備も、ここには全部そろっている。

石を飛び越える遊びが好きな人ばかりではありません。むしろ、天気に左右されず安心して連れて行ける場所があることのほうが、日常では大事です。

この土地は三十年前まで海でした。何もなかった場所に、人が全部を用意した。百五十年かけて勝手にそうなった松林とは、成り立ちが正反対です。それが同じ市内に、数キロ離れて並んでいます。

FIG.3–6複合遊具、トラック、ビオトープ池、芝生広場(写真差し替え)

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人が作った磯

その総合公園は、南端でそのまま砂浜につながっています。潮芦屋ビーチ。人工の海浜です。

面白いのは、その端に磯があることです。ただ石を置いたのではありません。潮の満ち引きの差を利用して潮だまりができるように設計されています。石をどければカニがいて、小魚もいる。

兵庫県の計画書には、埋め立てによって失われた白砂青松の風景を復元する、という趣旨のことが書かれています。この浜は、なくしたものを図面から作り直したものです。

遊泳はできません。花火もバーベキューも禁止です。できるのは、石をどけて生きものを探すことと、貝殻を拾うことと、波打ち際で足を濡らすことくらい。

あれだけ設備を用意した公園が、いちばん端に作ったのが磯だった。人が作れるものを全部作ったうえで、最後に地形を作ろうとしている。

FIG.7潮芦屋ビーチの磯広場。人の手で作られた磯です(写真差し替え)

06

名前だけが残っている

大きな場所ばかり書いてきましたが、数のうえで多いのは小さな公園です。市の一覧には四十以上の名前が並んでいます。市の面積は十七平方キロほどしかないので、かなりの密度です。

その多くは街区公園と呼ばれるもので、滑り台とベンチと砂場があるだけです。特別なものは何もありません。ただ、家から歩いて数分のところに必ずある。

その名前を拾っていくと、そのまま町名の一覧になります。打出公園、公光公園、業平公園、山芦屋公園、月若公園、津知公園、春日公園。業平は平安の歌人、在原業平から来ています。公光は、業平の霊が舞う能に出てくる人物の名だといわれます。

何もない小さな公園の名前に、千年前の名前が残っている。

立地によって性格も違います。山側の公園は小さくて、たいてい傾いています。木が深く、静かです。海側の公園は平らで広く、風が通って空が大きい。どこに住むかで、日常的に使う公園の種類が変わります。

FIG.8住宅地の小さな公園。名前に町の来歴が残ります(写真差し替え)

07

縦に、数キロだけ

ここまで出てきた場所を、北から南へ並べてみます。

山の岩場。川の河原の石。松林のやわらかい土。埋立地の芝生。人が作った磯。そして砂浜。足元の素材が、北から南へ下るにつれて順番に変わっていきます。

縦に数キロ。
その中に、全部あります。

芦屋の市域は、南北におよそ数キロしかありません。六甲山地から大阪湾まで、その短い距離のあいだに標高差が全部詰まっています。だから地形の種類が多い。

この短さは、ふつう坂の話として語られます。買いものの帰りがしんどい。自転車を電動にする。住んでいる人にとっては、たしかにそういう話です。

けれど、同じ短さが遊び場の密度になっています。滝から砂浜まで、車がなくても一日で行き来できる。これだけ地形の種類がそろっている街は、都市の規模で考えるとかなり珍しいと思います。

山も、川も、海も。芦屋はそれを全部、歩ける距離に持っています。

08

歩いてみる

南北で一日ずつに分けるのがいいと思います。

北の日は、阪急芦屋川駅から始めます。川沿いを北へ二十五分で高座の滝。戻ってきて、そのまま川を南へ下れば桜並木から松林です。芦屋公園で鵺塚を探してみてください。案内が目立たないので、探すこと自体が遊びになります。

南の日は、南芦屋浜へ。バスで海洋町か南浜町まで行き、総合公園で遊んでそのままビーチに出る。半日いても飽きません。車なら駐車場があります。

河原に降りるなら、天気を見てからにしてください。雨のあとは水量が増えます。

小さい子と行くなら、総合公園の管理事務所に赤ちゃんの駅があります。

それから、住宅地の小さな公園を目的なく見て回るのも、案外いい時間です。名前を読みながら歩くだけで、この街が古い土地だと分かります。

FALLS
高座の滝。阪急芦屋川駅から川沿いに徒歩約25分。その先がロックガーデン。
RIVER
芦屋川の河原。堤防から降りられる区間。石と水だけの遊び場。
PINES
芦屋公園。樹齢150年余のクロマツが約420本。一角に鵺塚。
PARK
ミラタップパーク芦屋(総合公園)。市内最大。設備がひととおり揃います。
BEACH
潮芦屋ビーチ。人工の磯と潮だまり。遊泳・花火・BBQは不可。

DATA

高座の滝
落差 約10メートル/雄滝・雌滝
ロックガーデン
1924年、藤木九三が命名
風吹岩
標高447メートル
芦屋公園
約29,433平方メートル/クロマツ約420本
市の木
クロマツ
総合公園
約100,245平方メートル/駐車場 約358台
公園数
市の一覧で40以上
市の面積
約17平方キロメートル

SOURCES

  • 芦屋市「公園一覧」「その他の公園」「芦屋ロックガーデン」
  • 兵庫県「潮芦屋プラン」
  • 芦屋市総合公園の公開情報